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デジタル時代の知的生産ツール(分析編)

梅棹忠夫「知的生産の技術」は京大式カードを生み出した. たしかに,アナログな知的生産ツールは現代においても有効だと思う. ここでは,アナログとデジタルの違いに注意しながら,「知的生産の 技術」の僕なりのやり方を考えていく.

カードを持ち歩き,「1項目1枚」の原則でカードに情報を書き出すという 梅棹流の特徴は以下の様にまとめられる.これらをデジタルツールと比較しながら 検討していこう.

  • 持ち運びが容易で,すぐに記入できる
  • 1枚1項目なので,並び替え・分類・参照が容易
  • カード1枚の面積に制限された情報整理術が必要
  • 身体的フィードバックを持って操作できる

持ち運びが容易で,すぐに記入できる

カードは手帳程度のサイズであり,持ち運びに関してはポケットでも カバンでも可能であり,とても優れている.しかも,少し硬めの 台紙をセットにしているので,机がなくても記入するのは簡単だ. さらに,ここがアナログの優れたポイントだが,取り出してすぐに 記入ができる上に,半永久的に利用が可能だ.半と言っているのは カードがたりなくなったら補充しないといけないことや, ペンのインクがなくなったら取り替えないといけないということだが, そこまで頻発する事態ではない.

これをデジタルツールで置き換えるとどのようになるか. 例えばPDAの様な携帯端末に記入することが考えられる. 持ち運びに関しては,デジタル特有の特徴として,物理的サイズを無限に 小さくできるため,カードよりも優れている.しかし,それが故に 十分な入力インタフェースを備えていない場合がある.これは個人の 習得具合にも依るが,私には携帯電話のテンキー入力はストレスフルだし, 手書き入力は遅すぎる.せめてEMONSTER程度のQWERTYキーボードは欲しいし, 思考のスピードとあわせるなら,B5ノートPCレベルのフルキーボードが ないと厳しいが,これでは机がないと入力できない.さらに,デジタル端末の 最大の難点が起動速度とバッテリである.ずっと起動しておけば取り出して すぐ入力という,アナログ並の使い方はできるだろうが,それではすぐ バッテリがなくなる.バッテリを節約すると毎回起動に時間がかかる. いずれにしても,いつかはなくなってしまうバッテリの心配を続けながら 使わなければならない点で,カード程の半永久性を持つことができない.

 | カード |デジタルツール ----------------------|--------------|-------------- サイズ |持ち運びには十分|いくらでも小さくなる 入力方法 |いつもの筆記|テンキーでは遅い・フルなら十分 記入時の姿勢 |立ったままでも|テンキーなら片手・フルなら机 取出から記入までの時間|すぐに使える|待受ならすぐ・オフなら時間がかかる バッテリ的な持ち時間 |半永久的|他の機能とトレードオフだが切れたら全く使えない

1枚1項目なので,並び替え・分類・参照が容易

梅棹先生がカードを選択した大きな理由が,この「並び替え」の容易さだ. カードには1枚に1つの内容が記入する.どこで「1つ」と区切るかは 当人の鍛錬によるしかないが,これはいつの時代も変わらない.だが, その区切りどおりに記録しておくことは,まさにカードが自分の脳みその 外部記憶装置として機能することを意味している.1つのカードに複数の 項目を記入することは,脳の構造と異なることをしていることになる. こうして,1枚1項目を守ることによって,1カード=1項目が成り立ち, カードの並び替え=項目の並び替えになる.従って,物理的なカードの 操作をそのまま情報の操作とすることができる.これは情報を脳内に 溜め込んでいる状態では不可能な行為である.

この様な特徴はデジタルでの実現は容易である.例えば,1ファイル1項目と してしまえばよい.カードならば,1枚に1行では「もったいない」と思って しまうこともあるだろうが,デジタルならばその心配もない.この点に おいては本質的にデジタルの方が優位性を持っている.また,アナログでは 不可能に近い「全文検索」や「タグ付け」なども可能である. 問題は,これらをどのように実装するかであり,優れた形で実装できた システムには私はまだ出会ったことがない.デジタルでは他のツールなどとの 協調性が重要であるが,多くは独自の形式にこだわりすぎて,そのツールでは 使いやすいかも知れないが,ひとたび離れると全く情報が取り出せないなどの 弊害が大きい.

 |カード|デジタル ----------------|------|-------- 1枚1項目の容易さ|容易|カード以上に容易 並び替えなどの容易さ|容易|カード以上に容易 リソースの無駄 |カードの無駄使いは在る|なし 付加機能 |なし|検索,タグ付けなど

カード1枚の面積に制限された情報の規格化

カードという単一の形式を様々な情報に援用することで,様々な情報を カードというたった一つの形式で扱うことができる.物理的に言えば, どんな情報も「1枚のカード」という物質に固定できるので,先ほどと 同様にカードの物理的操作をそのまま情報の操作とすることができる. また,カード1枚の面積は限られており,情報をある程度整理して 書き込むことが要求される.整理せずに詰め込むように書いたとしても, あとで利用することはできないので,無駄である.

デジタルでは規格化に関してはある意味究極の形ですでに実現されている. つまり,全ての情報を「0と1」というバイナリで扱っている意味において, 「0と1」に規格化がなされていると言うことができる.しかしながら 問題は,0と1のデータは物理的な操作との対応性が存在しないことと, データのサイズが制限されていないことだ.カードの場合,カードの操作で 情報の操作が出来たが,人間には0と1だけでは操作はできない.従って 適度な恣意性を持って,0と1を使いやすい形に変換する必要がある. そこがまだうまくできておらず,先ほどと同じ様に協調性のない規格ばかりが 存在する.そして,それらの多くはデータのサイズを制限していないことも 重要なポイントだ.カードはあの面積に制限をすることで逆に知的生産性を 上げているのだから,デジタルでも絶対に制限は必要になってくる.

これらの点において,私が可能性を感じているのは,RSSやTwitterといったWeb2.0的な 考え方である.RSSは情報を0と1レベルではなく,RSSというXMLの1種の形式に従って記述させる. マークアップ言語であるため,タグによって情報を操作することが人間にも 可能になるし,機械にも人間に近い動作をさせることができる.また,Twitterは 1ポストを140文字に制限しているが,これはまさにカードの面積に制限する様な 行為である.140文字の中には他へのリンクがあってもよいが,リンクだけでは なく一言情報を書き添えることで,ぐっと知的生産性が上がる.Twitterの ポストをRSSで取得することも可能であり,最近のWeb2.0の流れによって, デジタル情報がアナログのカードへと近づいてきたことがよくわかる.

 |カード|デジタル(Web2.0的) --|------|-------- 情報の規格化レベル|カード単位|エントリ単位やパーマリンク単位 情報の操作 |カードの操作|RSSなどの操作はまだ直感的ではない 情報の制限 |カードの面積|多くは無し(Twitterなど一部にあり)

身体的フィードバックを持って操作できる

意外と気づかないのがここだが,カードはあくまでも物理的な物質に過ぎない. だからこそ,我々はカードを並び替えたり検索するときに,必ず身体的な フィードバックを受けている.これを利用することで,様々な動作を自然に 行えている.人間の特に複雑な動作は基本的にフィードフォワード,つまり先読みを して動作を行い,その結果のフィードバックを受けて次の予測を修正するなど している.従って,フィードバックの無い動作は難しい.iPod touchの ファミコンのエミュレータで,コントローラがソフトウェアエミュレートされて いたのだが,ボタンを押したというフィードバックが無いために,操作はとても 難しかった.カードを操作するときは,触っている手から触覚のフィードバックが あるし,加えて視覚的にも圧倒的に分かりやすいフィードバックが返ってくる.

これをデジタルで代替することは難しい.視覚のフィードバックに関しては, Appleが天才的に上手く,自分の操作に対する視覚フィードバックを必ず返す 様にしている.しかしながら,触覚のフィードバックは現在の技術では ほぼ不可能である.これを実現するとなれば,指先にずっと触覚ディスプレイを つけるか,神経に電極を刺して信号を流すかしないといけないので厳しい. iPod touchのインタフェースは多少可能性を感じるが,まだまだカードは 程遠い.

 |カード|デジタル --|------|-------- 視覚フィードバック|あり|一部あり 触覚フィードバック|あり|ほぼなし

続きはまた今度

さて,こんな感じの分析をうけて,どうすればカード式の良さをとりこみつつ デジタルで知的生産の手助けができるだろうか.ちょっと疲れたので, 続きは次のエントリへ持ち越すことにします.次のエントリでは この分析を踏まえて,僕なりのデジタル知的生産術ツールを構想していきたいと思います.

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trackback from As a Futurist... 08-07-02 (水) 3:36

デジタル時代の知的生産ツール(構想編)

            前回のエントリで,カードとデジタルツールの僕なりの分析を行いました.
            その分析を踏まえて,デジタル時代にどのような知的生産ツールが可能なのかを
            考えてみました.
        ...
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