「3年で辞めた若者はどこへ行ったのか」を読んで,僕はブログを毎日書きたいと思った

一言で言えば,「たくさんのアウトサイダーによる金言集を,著者が『年齢給を無くせば全て良くなる』でまとめた本」 といった感じ.基本的にショートショートのインタビュー集なので,さくさく読めてオススメです.

著者は 10 ページに一回は「年齢給が悪い」「年功序列氏ね」的なコメントを挟みます.まぁ僕も同じ意見ですが, さすがにこれだけ繰り返されると,うっとおしく感じました.でも,本気で昭和的価値観に洗脳されている 人にとっては,これくらいやらないと伝わらないのかもとも思いました.

さて,それはどうでもよくて,この本には 22 のインタビュー記事が載っています.そのどれもが, 昭和的価値観を逸脱してしまった,アウトサイダー達の物語です.

目次はちくまのサイトがしょぼすぎるので,ダンコーガイのエントリから頂きました.感謝 m(_ _)m

  • はじめに

  • 第1章 キャリア編

    • 昭和的価値観 1「若者は、ただ上に従うこと」–大手流通企業から外資系生保に転職、年収が二〇倍になった彼
    • 昭和的価値観 2「実力主義の会社は厳しく、終身雇用は安定しているということ」–新卒で、外資系投資銀行を選んだ理由
    • 昭和的価値観 3「仕事の目的とは、出世であること」–大新聞社の文化部記者という生き方
    • 昭和的価値観 4「IT 業界は 3K であるということ」–企業ではなく、IT 業界に就職したという意識を持つ男
    • 昭和的価値観 5「就職先は会社の名前で決めること」–大手広告代理店で、独立の準備をする彼
    • 昭和的価値観 6「女性は家庭に入ること」–女性が留学する理由
    • 昭和的価値観 7「言われたことは、何でもやること」–東大卒エリートが直面した現実
    • 昭和的価値観 8「学歴に頼ること」–会社の規模ではなく、職種を選んで転職を繰り返し好きな道を切り開く
    • 昭和的価値観 9「留学なんて意味がないということ」–大手企業で MBA を取得後、安定を捨てた理由
  • 第2章 独立編

    • 昭和的価値観 10「失敗を恐れること」–大企業からNFLへ
    • 昭和的価値観 11「公私混同はしないこと」–サラリーマンからベストセラー作家になった山田真哉氏
    • 昭和的価値観 12「盆暮れ正月以外、お墓参りには行かないこと」–赤門から仏門へ、東大卒業後、出家した彼の人生
    • 昭和的価値観 13「酒は飲んでも呑まれないこと」–グローバルビジネスマンからバーテンダーへ
    • 昭和的価値観 14「フリーターは負け組だということ」–フリーター雑誌が模索する、新しい生き方
    • 昭和的価値観 15「官僚は現状維持にしか興味がないということ」–国家公務員をやめて、公務員の転職を支援する生き方
    • 昭和的価値観 16「新卒以外は採らないこと」–リクルートが始めた、新卒以外の人間を採用するシステム
    • コラム(1) 企業に求められる多様化とは
    • 昭和的価値観 17「人生の大半を会社で過ごすこと」–職場にはりついているように見える日本男子の人生
    • 昭和的価値観 18「大学生は遊んでいてもいいということ」–立命館 vs 昭和的価値観
    • コラム(2) 二十一世紀の大学システム
    • 昭和的価値観 19「最近の若者は元気がないということ」–日本企業を忌避しだした若者たち
    • 昭和的価値観 20「ニートは怠け者だということ」–「競争から共生へ」ある NPO の挑戦
  • 第3章 新世代編

    • 昭和的価値観 21「新聞を読まない人間はバカであるということ」–情報のイニシアチブは、大衆に移りつつある
    • 昭和的価値観 22「左翼は労働者の味方であるということ」–二一世紀の労働運動の目指すべき道とは)
    • コラム(3) 格差のなくし方 あとがき

目次そのものがすでに秀逸です.これだけ見ればこの本に書いてあることの内容は,僕の観察範囲の人であれば 理解できると思います.だからこそ,この本は中身を見てほしいです.著者とインタビューアーのやりとりから, 数々の金言が生まれて,紙面に刻まれています.ここではその一部を紹介します.

p.97

となると,もっとも幸せな人は,働くという行為と,自分の動機が完全に一致する人間だろう(中には無理やり 新人研修などで一致させようとする企業もあるが,世間ではそれを”洗脳”という).大雑把に言ってしまえば, 「やりたいことをやって,それで生きていける人」ということになる.

そういう意味では,彼らは万人に一人の選ばれた人間といえるかもしれない.確かに,そんな幸運な人など, そうはいないのも事実だ.彼らは昭和的価値観の地平から飛び立ち,天空に燦然と輝く北極星のような 存在に違いない.

p. 110

人に聞いた質問に対し,自分は答えられないということは,そこに固定観念がなあるということだ. 良い大学を出て,誰でも知っている大企業に就職する,そんな昭和的価値観を,エリートたちはいつの間にか 植え付けられているわけだ.

p. 124

「雇用における格差問題が存在することは事実ですし,誰かが取り組まないといけないでしょう.(中略) 椅子取りゲームでは,いかに椅子に座るかに頭を使うべきだけど,座れないなら座れないなりに, 幸せになる方法を考える人間が一人くらいいてもいい」

p. 164

四年間ぶらぶらした挙句,卒業間際になって「何やったらいいんでしょう」と戸惑う人間を 量産するような教育システムは,今や社会にとってはもちろん,個人の人生にとっても,大きすぎる損失だろう.

p. 175

少なくとも当時の日本には「侍の権利を奪うな!」と叫ぶ自称労働者政党も,貧民を引っ張り出してきては 「ほらこのとおり,明治維新のおかげで格差は拡大している!」とやってしまう痛いメディアもいなかった.

p. 179

「最近の若者は・・・・・・という人たちは,その程度の学生にしか相手にされていない,という言い方もできるでしょう」

と,こんな感じです.ドッグイアーしたページから特に印象に残っているものを抜き出しました.

こういう価値観の人間がうまれる時代だということは事実でしょう.そして,それらの人にも生存権を 認めてあげるべきで,たしかに既得権をぶっつぶさないといけない部分はある.だが,それを 「年齢給さえなくせばいい」みたいに「たった一つ何かを変えればうまくいく」という論にもっていくのは 納得できない.

世の中,そんな簡単ではありません.たった一つ何かを変えればすべてが変わるといった考え方は, 結局はプラトニズムにつながります.つまり,”正しい”世界があって,そこにするための方法論を シンプルに考えただけであって,正しい世界がないということになったとき,破綻します. 企業内の「多様性」を求めるのであれば,世界が「多様」であることをもっと積極的に認めていくべきでしょう.

僕たちにできるのは,問題提起と解決策をたくさん試すことだ.それを阻害するような仕組みは最低最悪なので 全力でなんとかしないといけないが,そのために特効薬があるわけではなく,正直に真面目に頭を 使うしかない.たった一つだけ,数多の場面に通用しそうな方法として,僕は「各人がもっと頭を使え」を 考えているけど,これは僕の直感なので,嘘かもしれない.

だから,この本に出てくる人たちの様に,身をもって経験した人たちの話はとても参考になるし, 著者のうまい引き出し方により,金言があふれ出てくる.素朴な一言こそ重いんだよね.

僕自身,3 年で辞めたいと思っている人だから,いろいろと参考になる本でした. 僕は教育をもう一度やり直すために,アメリカの大学院に留学したい.それも,「教育学」系を学びたいと 思っている.その先どうするかなんてわからない.一度ぷーになって,死ぬ気で学んでみないと 将来なんか見えるわけない.臨死体験のない人間の言う言葉なんて軽いよ.ただし,もやっとは やりたいことはあるので,そのために今から準備を重ねていかないといけない.

というわけで,迷える若者にはとてもオススメの本だし,昭和的価値観で全然満足できる人は こんな本読んでる暇があったら,いそいそと就職活動して大企業に就職したり,上司におべっか つかったりしてればいい.だって,それが楽しいんでしょ?勉強なんかしなくていいよ,君たちは.

  • JEX 09-10-15 (木) 12:05

    実に興味深いですね。