「コンピュータが仕事を奪う」を読んで思ったことを書く

「コンピュータが仕事を奪う」という本を読みました。読書自体しばらくできていなかったのですが 久々読んだ本がいい本だとやはり心地いいとともに、自分の選書のセンスを褒めたいです。 というわけでせっかくなので関連させてエントリを書きます。

「人間に何ができるか」について

本書はともかくこれにこだわって書かれた本です。

コンピュータはどのような仕組みで動き、何が得意で、何が不得意なのか。 一方、人間はどのように考え、何が得意で、何が不得意なのか。

これを十分に考えることが重要だというのは全く同意ですね。否が応にもこれからの人間は コンピュータと深く関わっていかざるを得ない。そんな中で、コンピュータに詳しい人と そうでない人の間で、「人間とコンピュータの違い」に関する洞察に深い隔絶が できつつあるなぁというのは僕の実感です。

そういう中でこういう本が出てくるというのは本当に良いことだと思います。 なにがすばらしいって、数多の情報の組み立て方がすばらしくて、「銃・病原菌・鉄」を 読んだ時に感じた「これぞ学者の書く一般書」という感じがしました。 普段あまりコンピュータの中について詳しく関わらない人にこそ読んで欲しいです。 高校数学程度の知識があれば十分読めるので、現役の高校生もぜひ。

コンピュータの誕生から今まで、人類の歴史から見れば一瞬みたいなものですが その中で行われた無数の研究や実践から、コンピュータに対する深い洞察が得られているともに その裏返しとして我々人間に対する深い洞察が得られているのも事実です。

人間について何らかしらの研究や実践をするのであれば、この短期間に得られた 本書にあるような無数のフィードバックを活用しない手はないと思います。 自分自身もそういう分野をちょっとはかじっているので感じますが、 コンピュータの仕組みと人間の仕組みを比較すると本当に面白いです。

機械と人間の違い

人間は機械なのか。本書の中でも問いかけがあります。脳の神経のネットワークを 完全に再現すれば人間と同じように考えることのできる機械が作れるのではないか。

僕は「ツインシグナル」という漫画が大好きです。この漫画では世界最高の技術を 結集してまるで人間の様にうごくヒューマノイドロボットが作られています。 本題とは離れますが、もしもそういう機械ができたときどんな苦悩がありえるのかについて 小説と合わせて読むと本当に考えさせられるいい作品です。

さて、そういうツインシグナルの様な世界ができるのだろうか。 多分まだ答えは出てないと思います。脳神経科学や計算脳科学の研究はまだまだこれからも 重要な成果を出してくれそうですし、ロボット工学が生み出す身体についての研究も見逃せません。 僕自身は社会人になってしばらく離れてしまってますが、いずれはキャッチアップを続けていけるように したいと思っています。自身が研究をしなくても、その生み出す成果の一部はオープンソースとして 公開されているので在野でもある程度キャッチアップはできると思います。

そういう研究の最前線と比べればしょぼい発見ですが、僕がちょっと思ったことをせっかくなのでつらつらと。 本書だと数学的な内容で人間とコンピュータを比較していますが、それだけじゃなくて他にも比較すると結構面白い。

データベースと人間の関係

CPU やメモリといったアーキテクチャと人間の脳をアナロジー的に比較するというのは よくやられることです。自分が思ったのはデータベースのアーキテクチャも人間に当てはめてみると 結構おもしろいなという点です。ずっとデータベースばっかり触ってるので自分の領域に引きこんでみます。

データベースの歴史というのは、速いけど電源が落ちると消えるメモリと、遅いけど永続化できる ハードディスクの間で、いかにしてデータを記録するかの戦いです。単純に更新を毎回ハードディスクに 記録していたのでは非常に遅くなってしまうので沢山の工夫があります。

ハードディスクへ記録するとしても基本的には多くの処理はメモリで済ませるようにしないといけません。 そのために基本的にはメモリ上にキャッシュしています。しかしそれだけだと電源が落ちたら消えてしまうので 「更新ログ」という形で更新の度にどういう更新があったのかということを逐次的にハードディスクに記録します。 更新ログはデータそのものを更新するのではなくて、こういう更新をしたんだという事実の記録をするだけなので データ自身やインデックスというデータの検索につかう目次の様なものはメモリの中だけが更新されます。

更新ログへの書き込みは、データ自身の更新と比べると速く書くことができます。ハードディスクの 構造上、ログの様に追記していく形の更新は結構速いからです。そしてハードディスクに少なくとも記録しているので たとえメモリの内容が消えてしまっても、ある時点から更新ログをたどっていくことで更新内容を漏れ無く 復活させることができます。

これ、人間で考えてみると結構同じことが言えるんですね。大量のインプットを記憶しないといけないときに どうやると効率的なのか。人間の脳の記憶はコンピュータでいえばメモリに近くて 考えるときに情報を引き出す時は脳に記憶してる方が高速なんですが、時間が経ったりすれば忘れてしまいます。 もちろん長期記憶としての記憶はあるんですが、これがコンピュータとは一番違う部分で 覚えているんだけど内容は曖昧だったり嘘が混じったりしてしまいます。

特に仕事の内容とかだと曖昧なままの情報ではまずいので、皆さん何かしらの方法で外部記憶すると思います。 実はコンピュータでもハードディスクは外部記憶装置と呼ばれていたりするんですが、まさにそんな感じ。 外部記憶は永続的なんですが、いかんせんアクセスが遅いですね。メモを取ったり 情報を整理してまとめたりする作業は脳が無意識に長期短期使い分けて記憶しているのと比べれば 非常に遅いです。

ここにデータベースのアナロジーを当てはめれば、大量のインプット(例えば誰かの講演を聴きに行った時)を 効率良く記憶するには、まずは更新ログに記録して「整理はできてないけどとりあえず記録した」という 形を作るのが良いということになりますが、実際そうだと思います。

手を動かさずに 1 時間の講演をじっと聞いて、最後の最後に全体をまとめるというのは可能ではあるんですが、 細かな更新がどうしても抜け落ちてしまいます。だから、tsuda るじゃないですが講演の内容を (一字一句間違わずという意味ではなく)逐次的に記録しておく方法を取るとよいです。 もちろん、メモを取るのが目的ではないのでメモを取りながら同時並行で脳のメモリを使って 色々と考えてその講演の内容のインデックスを構築していくこともやっています。

その上で、終わったあとに更新ログを見ながらかつ既にメモリに構築したインデックスを 総合してまとめていくと更新に(自分にとって必要なという意味で)漏れがなくなります。

そのインデックスや情報もやはり外部記憶しないと、脳の記憶ではちょっと不安ですが、 この情報の書き出し方法はあとで使うのが容易な形にするという意味で逐次的な更新である必要はなくて 自分が記録するのに使いやすいものを使えばよいです。今であれば電子ファイルに記録しておけば 全文検索したりもできるので、インデックスをそこまで気にしなくても良いので便利ですね。

僕の場合は、更新ログとしては主に MindMap と Twitter を利用しています。 その後の外部記憶はあんまり定まってないですが、仕事だとメールにしたり wiki にまとめたりしますし、 こうやってブログにまとめることもあります。

本を読んでる時の更新ログにいい方法がないかなーと思ってるのですが、 今は気になった内容のページをドッグイヤーしてあとで参照できる様にしてる程度ですね。 まぁ本は手元にさえあれば毎度参照してもいいかなと今は思ってますが、 研究をするのであればこれもまとめていく方法を作らないといけないですね。 本や論文を読むのが仕事になれば自然と考えていくでしょうが、今は趣味でしかないのでこんなレベルです。

まとめ

というわけで、本の内容とはかけ離れたことを書きましたが、コンピュータと人間の違いを 考える時に必ずしも数学的な部分だけが注目すべきポイントじゃなくて、 こういった構造的な部分でも比較することで、コンピュータから学ぶことができたりします。

哲学とか教育とか、人間に深く関わる内容をいずれ僕はやりたいんですが、 そういうのやるときに今得ているコンピュータに対する知識や見解は絶対に役に立つなーと思っています。 だからこそ、やめられないんだよなぁ。。。

というわけで、まとまってないですが本当にいい本ですし、1 日あれば読みきれるボリュームなので 全ての人に届けたいと思っています。こういう本が書ける様な人になりたいなぁ。