科学の剣と哲学の魔法について

この言葉を聴いて何のことだかわかるだろうか?きっと,科学と哲学について まじめに”自分の頭を使って”考えたことのある人ならすぐに合点がいく 言葉だと思う.しかしながら,どうも世の中そういう人は少数派のようで, なんでこんな言葉が出るのかよくわからんという人がほとんどのようだ. というわけで,ちょっとこれを僕なりに説明してみる.

科学が生み出す「呪い」とは

そもそも,みんな「科学とは何か」を真剣に考えたことがあるでしょうか? 「そんなの知らなくても科学はできる」とか言われそうですね. なるほど,ある意味そのとおりで,「○○とは何か」という問い方自体が 実は哲学の範疇なのです.みんな(特に日本人は)哲学というと専門用語を 並び立てて,小難しいことばっかり言う割には何の役にも立たないと 思っているようですが,哲学というのは突き詰めれば,この「○○とは何か」 という問いを”あらゆる”対象・現象に向けて投げかけ,答える行為を 指します.従って,「科学とは何か」という問いを投げかけ,考える行為は ”哲学”の取り扱うところとなります.

ですから,冒頭に言ったような「そんなの知らなくても~」という答えは ”科学だけ”をやっている人にとっては当然の答えなのです.だって, 「科学とは何か」という問いに答えることは科学の範疇ではないからです. そうやって,科学のみを考えているという脳みそを持った人が世の中には たくさんいます.決して,大学の先生だけを指してはいません.学生然り, マスコミ然り,テレビピープル然りです.例えば,昨今なぜか話題になっている 地球温暖化についてもマスコミなどでは大々的に”科学的な”裏づけが 説明されているではありませんか.これは問題を”科学的に”研究している 学者が裏づけをし,”科学的に正しいものは正しい”というマスコミと テレビピープルによって了承されているという構図です.

しかし,一方で同じ科学をやっているはずの他の学者は温暖化は確証が持てる ものではないという説明などがなされています.ざっくり言ってしまえば, 地球は今温暖化なんかしてないということを,学者が”科学的に”言っている わけです.これはどうしたものでしょう?みんな”科学的に”考えている はずなのに,真っ向から対立した話が出てきてしまいました.

ここで,”科学しか”考えない人は,いきおい,相手の説明は「科学的ではない」 という論によって否定しがちです.当然でしょう,自分は科学的に正しい やり方をやっているのだから間違うはずがない,違う結論があるとすれば, それは相手のやり方が科学的に間違っていると考えざるを得ません. こういう思考過程は,学者でなくても了解できるものでしょう.しかし, これは反対の立場も同じことを考えてしまうわけで,これをお互いにやりあっても なーんにも前に進みません.水掛け論というのはこういうのを指すのでしょう. お互いに”科学”をやっているはずなのに,水掛け論にしかならず, 一向に前に進まない,これこそが「科学の呪い」なのです.

この様な「科学の呪い」は,科学の範囲で考えていても絶対に解くことはできません. なぜならば,この呪いを解く過程で必ず「科学とは何か」を考えなければ ならないからです.最初に述べたように,この問いは”哲学”の範疇なのです.

科学の呪いを解く方法

なぜ呪いを解くために「科学とは何か」が必要なのかと言えば,この呪いの 根本的な問題は,各人が思っている”正しい科学”に差異が存在するからです. ある学者は「観測結果こそが正しい」といい,他の学者は「実験こそが正しい」と言う. マスコミは「○○先生が言うことが正しい」と盲目的に信じる(ことしか彼らの 能力的にはできない).そしてテレビピープルは「テレビが言うことが正しい」と 信じる.これらすべての”正しい”がそれぞれの「科学」なのです.前提としている 「正しさ」に違いがある.この様な視点に立つことは,いくら「科学」という名の ”剣”を振り回しても不可能です.なぜならば,科学の範疇にいる限り, 「科学とは何か」という視点にはたどり着けないということは最初に言った とおりだからです.

「科学の呪い」というものに対して有効な手段について,僕は今のところ 「哲学」が最有力だと思っています.哲学は,科学の剣に対して,「魔法」の様な 役割を果たします.科学の剣にかけられた呪いを解くための魔法なのです. 呪いは剣では切れません.魔法で取り除くしかありません.呪い解除の呪文は もうすでに見てきたように,「科学とは何か」と問うことです.この呪文なくして, 科学の呪いを解くことはできません.

「別に呪われてても切れればいいよ」という人もいるんでしょう.確かに, とても限られた範囲でしか使われない剣であれば,それでも大した害を 与えることなく使うことができるでしょう.具体的に言えば,例えば 物性系の研究の最先端などは,「科学とは何か」を問うことよりも, まずは進めるところまで進むことが重要でしょう.だから,仮説検証として 実験を数多くこなすことが必要であり,その場において「科学が何か」 なんてのはどうでもいい話ですし,大して大きな影響もありません.

ですが,「人間」と大きく関わる分野での剣の使い方には注意が必要です. 特に多様な人間が関わる場合(当然人間は多様なのですが,例えばバックグラウンドの 多様な人間が関わる場合などを想定)においては,各人の「正しさ」が異なる 場合が往々にして存在します.これくらいは,大して頭を使ったことの無い 人でも,経験的にわかるでしょう.そういう場面において,自分の正しさ=剣を 振り回しまくったら,他人に傷をつけます.本来,科学の剣は「わからない対象」を 切ってわかるものにしていく道具です.もちろん,他人が対象である場合も あるでしょうが,誤った剣の使い方はその人の精神を傷つけることとなります. (注:決して心身二元論を主張しているわけではなく,比喩の話です)

こういう場面においては剣の呪いをきちんと解いて使う必要があると僕は考えます. つまり,哲学の魔法を使う必要があるのです.しかしながら,どうもこの 魔法はみんなが使える状態には,現状ではないようです.それは近代の教育が 剣の使い方ばかり教えてきたからでしょう.僕自身も,魔法の使い方については 習った覚えはありません.つい最近になって自分で呪いを解く必要性を 感じて独学を始めたところです.従って,現状では皆に魔法を強要するのは 得策ではないようです.なので,この文章の意味が理解できる人は,すこしでも 自分の魔法を使ってあげてください.あなたの周りには呪いに縛られてしまっている 人がたくさんいるはずです.あなた自身もそうかもしれません.それが苦しかったり 他人を”傷つける”可能性があるのだとしたら,魔法を使っていく必要があると 思います.

剣と魔法の鍛え方

もちろん,剣の使い方すら知らないのも問題です.僕自身も剣の使い方を最後まで 突き詰めなかったのはいずれボトルネックになるだろうなと考えています. ですが,僕は昔から「魔法剣士」になりたかったようです.なので,うまく 時間と機会を使って,双方を鍛えていきたいと思っています.

マスコミやテレビピープルのように,自分の頭を使わない人たちは,自分の頭の 使い方を少しくらい覚えるといいと思います.それは剣でも魔法でもいいので, ともかく自分の頭で考えることをやらないと,これからやばいと思います. 心配しなくてもどちらのやり方も自学自習できます.ただし,その前提条件として 「本が読める」ことが必要です.本を読めない人はいくらテストの点数がよくても 自学自習はできません.諦めて一流の師範を探して,口語で教えてもらって 下さい.僕は口語は苦手なのでこれ以上はよくわかりません.詳しい人に聞いて ください.

本が読める人は,巷にはあまたの指南書が存在しますがまだ頭を使ったことがない 状態ではどの本がよいのかわからないでしょう.ですので,一流の人が参考にした 本などからあたるとよいでしょう.典型的に言えば,「古典的」なものになると 思います.僕自身,あまり古典に当たれていないので大きな口は叩けませんが, やはり時間というフィルタをくぐり抜けてきた書物にはそれなりの価値があります.

少しずつ自分の頭の使い方がわかってきたら,あとは直感を大事にしましょう. 直感で「いい」と思ったものはどんどん吸収していくといいと思います. あとから見れば「やっぱあれは違った」ということもあるでしょうが,別に 無駄にはなりません.恐れずに直感を磨いていくことが大事です.

個人的な推薦図書

と言うわけで,最後に五流の魔法剣士からの推薦図書です.

まず,科学については,中学高校の数学・理科の内容が最も基礎になります. これについては,良書はまだ発見していませんが,中学高校でよくわからなかった という人は,受験の参考書でも何か買えばいいのではないでしょうか. どんな剣を使うにしても,絶対的に基礎(例えるなら筋力)となるので,この辺は はずさないようにしましょう.

僕はそこから工学屋さん,特に機械屋さんに進んだので,その辺の剣なら 少し使えます.これについては断片的かつ中途ですが,こちらのWikiに 書いています.更新する気持ちではいますが,今は魔法の練習に忙しくて サボってしまっています.すみません.

次に,哲学についてですが,僕も始めてまだ半年くらいですので大してよく わかりません.なので,僕が読んでいいなと思った本をいくつか. ただ,これらの本は頭を使わない人が読んでもなかなか難しい気もします. なので,最初はイメージ力の必要な小説などから文語の使い方を 勉強したほうがいいかも知れません.例えばSF小説などはいいと思います. これは剣の使い方にも役立ちます.

さて,僕が魔法の道に入ったそもそものきっかけが,「構造構成主義とは何か」 という本です.このエントリの主題である「科学の剣 哲学の魔法」という言葉も この本の中から拝借しています.ただ,いきなりこの本はしんどいと思います. まずは哲学の基礎をつける方がいいと思います.もしもいきなりこれを 読むなら,先に「科学の剣 哲学の魔法」というそのものズバリな対談本が あるので,これで様子をつかんでから読むといいと思います(実際僕もそう しました).

さて,哲学というもの,さらに現代思想への架け橋としての入門としては 「反哲学入門」を読みました..この本で僕はソクラテス・プラトンから 始まる西洋哲学の流れをざくっと知るとともに,それがニーチェによって ひっくり返された歴史を学びました.この辺のことがとても平易な文章で 書かれています.なんの前提知識が無くても,読むことができてオススメです.

続いて,「そうだったのか現代思想」という本でニーチェ以降の現代思想と 呼ばれるものについてざっと知りました.実はニーチェ以降は伝統的な 哲学とは異なっています.しかし,黒魔法と青魔法みたいなもんで, とりあえず魔法であることに変わりはないと思います.これで現代思想の 流れを大体つかみました.いや,嘘ですw.あまりにも内容が豊富すぎて 各論は把握しきれてませんが,なんとなく流れはわかった気がします.

それで,現代思想としてフーコーを知りたいと思って,「フーコー入門」を 読みました.これはとてもわかりやすかったです.フーコーがまさに僕の やりたい魔法を使っていたということもあり,すごく参考になりました.

で,イマココですw.この程度しか知りません.全然初級も初級,ガキ同然ですが 今ここを少しでも勉強しないと,自分が折れてしまいそうで怖いです. 魔法を勉強するコツは個人的な経験や思考に基づく,主観性です.自分で 知りたい・考えたいと思わないと,頭で理解できないと思います. 剣は体力をつけるところは理解はできなくても反復することで強くなれますが, 魔法にはどうやら自ら学ぶ主体性が必要なようです.あくまで個人的な感想ですが.

というとこで,長くなりましたが,「科学の剣と哲学の魔法」について 少しはわかってもらえたでしょうか.別に剣士になるも,魔法使いになるも, その他商人や職人になるも好きにすればいいですが,自分なりの頭の使い方は 覚えた方がいいと思います.