ひとりで作れる様になってしまうかも知れないと考えること

この記事読んでてちょっと思ったことがあったのでメモ書き。

デスクライトも 1 人で製品化できる

記事で紹介されている八木啓太さんは、新型の電気スタンドを”一人”で創り上げて販売している。富士フィルムという会社でトータルなものづくりを学び、それを活かしつつ自分のアイデアを自分一人で創り上げることで最速で世に出した。

同社の驚くべき点は、デスクライト STROKE の企画、回路/筐体設計・試作、熱や耐久などの試験・評価、量産設計、梱包デザインに至るまでの全ての工程を八木氏自身がこなしたことだ。しかも、本格的な設計開始から販売までの期間が、約 10 カ月。そして現在は、販売も営業も販路開拓も、全て自らでこなしているという。

“理想の製品づくり”に挑む:若手エンジニアたった 1 人のメーカー経営(前編) (1/2) – @IT MONOist

すごい。簡単そうに言ってるけど、一人で全部やれるってのはそれはそれでスペシャルですごい。ほんとすごい。

で、思ったことってのは「こういう人すげー」ってことじゃなくて、下記の言及。

「製品開発は、誰でもできる時代になりつつあります。一昔前は、参入の壁が高く、個人ではそういう発想に至らなかったのだと思います。いまは、技術情報もインターネット上に豊富にあり、CAD など開発ツールの値段も下がってきました。たとえ週末起業の個人であっても、製品開発することが可能になってきていると思います」(八木氏)。

“理想の製品づくり”に挑む:若手エンジニアたった 1 人のメーカー経営(前編) (1/2) – @IT MONOist

もちろん、自動車とかに比べれば部品点数は圧倒的に少ない電気スタンドだからできたんだろ、って話はあるかも知れない。

でも、ホントおっしゃってる通りで、例え電気スタンドであったとしても、自分の作りたい、って思った”もの”を本当に形にして価値を生み出す所までに持って行くことなんて、普通の感覚だと無理だ。デザインだけできればいいなんてわけなくて、部品の選定、回路の設計、実装、テスト、販売、などなど、どんなものづくりでもその一連の工程には複数の異なる知識・技術が必要になる。

それが可能になったのは、CAD などの必要なツールや、製作に必要な知識・技術がオープンになることによる陳腐化が大きく貢献している。「もしかしたらひとりでもできちゃうんじゃないか?」と思わせること、が重要なんだと思う。

アニメーションだって一人で作れる

これを読んでて、ふとよぎったのが、アニメーション監督の新海誠さん。

会社では、ゲームを集団で作るっていうことを経験してきたわけです。いろんな言い方ができますけど、自分がディレクターという風上の立場に立った場合、実作業という手間のかかる部分は分担して人にお願いするわけです。でも他人に自分の考えを伝えていくというのは、「イメージの劣化」になる。そのへんがストレスだったんですよね。

(略)

でも、コンピューターがあれば、自分ひとりでそのストレスなく作ることは出来る、とにかく一度それを試してみたかったんです。

Amazon.co.jp メッセージ

知らない人もいると思うけど、新海さんはゲーム会社在職中から、自分の時間を使って一人で「アニメーション映画」を作って公開した人。それまでアニメーション(特にテレビで皆さんが目にする様な感じのやつ)というものは労働集約型で、多数の人間が関わって作られるものとみんなが考えていた。けれども新海さんは、企画から絵コンテ、動画、原画、背景、編集、さらには声優までほとんど一人で作ってしまった。

「ほしのこえ」は、2Dと3DCGが画面中に混在する、1台の PC(G4 Mac-400MHz)で制作したフルデジタル・アニメーションです。キャラクタ・背景美術は2Dで作画、メカニックは3DCG(部分的にセルシェーディング)、エフェクト関係は2Dと3Dを交えた折衷表現が基本となっています。アナログ部分はキャラの線画のみで、それ以外はすべて PC 上での作業となっています。

Other voices -遠い声-

上記ページを見ても分かる通り、それが単一の技術だけでできているものでないことは分かる。新海さん自身、美術はずば抜けた技術を持っているけど、それ以外はむしろチャレンジングな部分も多かったみたい(上からですいませんすいません。。。)。そこで効果を発揮してるのが、要素技術の陳腐化。

「ほしのこえ」の前に、会社に勤めながら「彼女と彼女の猫」という 5 分くらいのアニメーションを作られたそうですね。まずはこれを作ったきっかけを教えてください。

(略)それで、家に帰ってからちょっとずつ、自分でアニメーションを作るようになりました。当時コンピュータのハードとソフトが、性能は上がったけど値段もどんどん安くなってきている、という状況とぴったり重なっていたのも大きかった。家でも何かできるんじゃないかという気がして、まずはデータ量の軽いモノクロで作ってみようと思いました。

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先程の八木さんの例と全く同じだ。「ほしのこえ」では 3D でモデリングされたメカが登場するが、ほんの一昔前にこんなことを個人がただの PC でできるなんて想像もできなかった。でも、「もしかしたらできるかも」って思って始めた結果、やっぱりできちゃった。

一人で作れるといえば web 業界

で、こういう状況を一番身近に、かつ大きく感じられるのが僕がいる web の業界。

今現在巨大はサービスは、基本的に多数の人間の共同作業によって創り上げられているが、それがたった 1 人や数人から始まったサービスによって駆逐されてしまうイノベーションというのを、僕達は何度も経験している(推測込み)。

ハードウェアの陳腐化の恩恵を受け、ソフトウェアは本当にほとんどタダ同然で作れる様になってしまった。インターネットの普及によって、”物理的につなげる”という行為に何も苦労する必要がなくなった。さらには、レンタルサーバから VPS、クラウド、PaaS などなど、作ったソフトウェアを公開して価値を生み出すことが個人でも十分可能なレベルになってしまった。またなにより大きいのが、そうした”もの”を作るためのノウハウが次々とインターネットを通じて公開され、新規参入者の障壁をどんどんと下げていることだ。

そうして成功事例を見ることで、「僕にもひとりでできるかも」って思わせてくれる。そうなることでどんどんとやり始める人が増えて、その人達によるアウトプットを見てさらに「僕にも〜」って思う人が増えて(ry

いつか一人で作れるようになるかもしれない妄想

この 3 つの例は背景にあるものが共通している気がする。

  • 要素技術がオープンソースなどによって陳腐化する
  • それに必要なコスト(費用や学習コストなど)がどんどん下がる
  • その結果労働集約型でしか作り出せないと思っていたものが、「1 人でも出来るかも」と思える様になる
  • 実際に 1 人で出来てしまう

i モード時代には携帯端末で動くアプリを作るのは本当に面倒で大変な作業だったけど、今は JavaScript だけでスマホのアクションゲームが作れてしまう時代(それが”チョー簡単”と言えるかどうかはさておき。。。)

人間を画像認識して動作を入力として取り出すなんて、ちょっと前まで大学の研究室とかで高いカメラとソフトウェアが無いとできなかったのに、Kinect を使えばあっという間に自分の PC で簡単にソフトウェアが作れる。

全然違う話で知識ないので推測だけど、多分農業とかもそうで、昔はみんなで協力しないとできなかったことが、農機 1 つでできるようになったりとかしてるはず。

同じような例はおそらく枚挙に暇がない。ソフトウェアとハードウェアの高度化によって、今まで一人では絶対に作れなかったものが作れる様になる時代は、実はどんな業界にもやって来るのではないだろうか。自分の業界ではあり得ない、と反射的に思った人こそ、もしかして近い将来そういうことができちゃったりするのでは?そうなったときに何が起こるのか?って想像してみると、すごいワクワクするとおもう。

例えば家を建てるのってほとんどの人にとっては一人じゃ無理なわけだけど、よく考えたらログハウスとか一人で建てちゃってる人はすでにいるわけだし、医療行為はたくさんの医師がいないと無理って思ってても、もしかしたら将来は自分で治療できる何かそういう装置が出来ちゃうのかも知れない。

こういう方向性って個人的にはすごく面白い。たくさんの人が関わることが前提だったところに、その前提間違ってるよね、って一石投じられるだけで物の考え方が変わる。何でもかんでも一人で作れるから、みんながそうやって作る様になるかというとそういうわけでもない。やはりあるクオリティを担保するためには労働集約しないといけないものはいつまでもあって、だんだんと両極端化していくのかなぁとか。こうやって思考実験するだけでも楽しい。

ちなみに、この二極化についてはスクウェア・エニックスの CTO の橋本善久さんのこの資料がすごい示唆的なので必読。超要約すると、ソフトウェア開発はひとりで作れる側に寄って考えちゃう人が多いけど、犬小屋を建てる場合と超高層ビルを建てる場合で当然方法論は違うよね、って話。

考え方の 1 つの指針になる

人間は道具を使って一人でできる行為を増やす方向に動きたがる。猿が立ち上がった時に一人でできたことから比較すれば、人間一人ができる行為というのは、道具の力によって多分単調増加してきた(ロストテクノロジーみたいなのはとりあえず置いといて)。

必然的にそういう流れの中に身を置いている僕達としては、次は何ができるようになるのかなぁとか、これができるようになるといいなぁとか、色々考えていくのは有益なことなんじゃないかなぁ。

少し現実にもどると、僕は多数のサーバが協調動作するシステムを管理してたりするんだけど、今でもやっぱり人手は必要で、色んな手作業がたくさん残ってるので一人でこれをやるのは無理だと感じてる。でも、僕の頭の中にはこれがたった一人でも(もしくはいなくても?)管理できるような時代というのを思い描いていて、僕はそれに向かって必要な要素を地道に潰す作業をやったりしている。

というわけで、八木さんであったり新海さんのような、それを実現しちゃった人は本当に尊敬するし、色々刺激をうけてやってやろうって気にさせてくれる。

いつもいつもこういうことばっかり考えてると、机上の空論野郎になっちゃうけど、目指す方向性を考える時にこういうこともありえるよなぁってのを頭の片隅に浮かべておくだけでも、ちょっと違った世界が見えたりしたらいいなぁと思って、メモした次第でした。

多分、こういうトピックに関連した本ってのも一杯ある気がするんだけど、いかんせん僕は読めていない気がするので、オススメ本のある方はぜひ紹介してくださいませ><