Software engineerが日本から北米に移住すること

自分は日本からアメリカとカナダの北米 2 カ国に、労働許可を持って移住した経験があります。そういった移住/働いてみたいという方の相談にのる機会も多いのですが、共通して持っておいた方が良いなと思った情報がいくつかあるので、まとめておきます。

その前に注意事項として、以下をご確認ください。

  • 就労に関する状況は日々変化しています。ここの情報はあくまで参考として、最新の正しい情報はご自身が行かれる際に改めて然るべきルートでご確認ください。
  • なぜ北米に行くのか?という問いにはこのエントリでは答えません。あくまでも移住したいというモチベーションを持っている方向けの情報になります。
  • 自分と同じ様に日本国籍のみ有していて、ずっと日本で生まれ育った方に向けて書いています。細かい状況の違いは読み手側で吸収してください。
  • これは個人の意見であり、私が所属するいかなる組織の意見を代表するものでもありません。

認識すべきこと

以下の 3 つが、僕が見聞きした限りにおいて、移住をしたいと思ってもブロッカーになってしまっている代表的な 3 項目になります。

  • ビザ/労働許可
  • 英語
  • 家族

後ほど、これらを 1 つずつ解説していきます。これ以外にも移住に当たって考慮すべき点、例えば食生活の違い等はありますが、それらの多くは北米に移住したい/働いてみたいと思っている人にとってはすでに乗り越えた問題であることが多いので、このエントリでは割愛します。例えば、自分の場合は食事にそもそも大したこだわりがないので食生活の違いはそもそも気にしていなかったりします。

ビザ/労働許可

改めて注意: 就労に関する状況は日々変化しています。ここの情報はあくまで参考として、最新の正しい情報はご自身が行かれる際に改めて然るべきルートでご確認ください。

自分が国籍等を有する国で働くことほど簡単なことはありません。そうでない国で働きたいと思ったとき、それは国内で都道府県を変えて働くのとは全く違う行為である、ということを認識している人は案外少ないです。僕は、北米で働きたいと思った最初の段階(2010 年頃)で、このビザ/労働許可に関する情報を @niwさんから教えて頂いたおかげで、自分の戦略を正しく組み立ててトライし続けることができたと思っています。なので、なるべく早く知っておいた方が良いと考えています。

なぜ、国籍等を有しない国で働くことがそんなに問題になるのでしょうか?それは、その国から見ればあなたは外国人であるわけで、わざわざ自国の労働力からではなく外国から労働力を入れる必要があるのか?を考えてみると良いです。普通の考え方をすれば、その国の政府は自国の労働環境を守る傾向があります。アメリカやカナダは移民の多い国なので、当然無作為に受け入れてしまえば自国の労働環境が壊れてしまう可能性が高くなります。なので、ビザ/労働許可1というものを発行された人のみが、外国人として働くことができるようにしています。

また、ビザ/労働許可を受けた人は、所得税等をその国に支払います。他の自国の労働者と同様に振る舞ってもらえるといった観点からも、政府としては歓迎できます。いわゆる不法労働(正規のビザ/労働許可無しに労働する)は、税金等を払わないのにその国に暮らして仕事をしている状態なので、見過ごすわけにはいかないというのもうなずけます。

そして、ビザ/労働許可は通常は有効期限が決められており、特に何もなければその期限がきたら強制送還となります。そのため、その有効期限を超えても働き続けたいという人は、ビザ/労働許可の更新であったり、場合によっては永住権(アメリカはグリーンカードとも呼ばれます)を取る必要があります。

というわけで、もしも北米で働きたいという思いがあるのであれば、どのようにしてビザ/労働許可を取得するかというのがまず真っ先に考えなければいけない問題であり、最後の最後までずっとつきまとってくる問題でもあります。もし、あなたがまだこの問題を直視していないとすれば、それはあなたの「行きたい」という気持ちはそこまで本気ではないと思った方が良いです。ビザ/労働許可の問題としっかりと向き合ってからが、スタートです。

ビザ/労働許可の種類

ここからは、ビザ/労働許可を取る上での一般的な考慮点を解説します。あくまでも、僕個人の認識に基づくものであり、虚偽が含まれる可能性も十分にあります。正しい情報は自身の責任で取得することも大事な行為です。

さて、僕は大きく 4 つの軸があると思います。

1. 雇用主や職種を変更可能か?

ビザ/労働許可は、雇用主からの申請で取得できる場合が多く、その場合はそもそもその会社でしか働くことができないという限定付きになることが多いです。もし、偶然にもビザ/労働許可が出たとしても、その会社/仕事が自分にとって全くおもしろくないものであったり、後述する駐在員の様な形の場合には会社から帰還命令が出たら、逆らう術がありません。一方、ものによっては雇用主を変更できたり、そもそも特にそういった縛りなく取得できるオープンなものもあったりします。職種についても同様で、多くの場合は職種が縛られていることが多いです。

一般的に、ここの縛りがきついほど取得はしやすいと思います。その方が、その人に許可を与えることによる自国へのインパクトが測りやすいですよね。しかし、自分が望む会社・職種でないビザ/労働許可を取得しても、ただ単に住む場所を移すことはできるかもしれませんが、Software engineer としてキャリアを積みたいのであれば、そこはしっかりとこだわった方がよいと僕は思います。また、誰でもできるような仕事ではビザ/労働許可の取得が難しいということもわかるかと思います。

2. 配偶者のビザ/労働許可はどうなるか?

配偶者がいる方は、配偶者も北米で働きたいかどうかによってさらに条件がきつくなります。自分の場合は妻は働きたいという希望があるので、配偶者にも労働許可がでるものでしか探せませんでした。そうでなくても、配偶者も自分でビザ/労働許可を取るという選択肢ももちろんありますが、諸々考えるとこれが実現できるケースは稀ではないかと思います。

3. 新規雇用でも対応可能か?

ビザ/労働許可の種類によっては、外国からの新規雇用時には取得できないものもあります。俗に駐在員ビザと呼ばれる様なものは、外国の関連会社(例えば日本支社)等での経験をもって、自国(アメリカ/カナダ)に価値を提供できるという前提になるので、そもそも新規雇用の人に出すのは難しいという話になります。

なので、北米で働きたいというときに、直接北米の会社に応募してビザ/労働許可を出してもらうだけが選択肢ではなく、一旦日本の関連会社に入って経験を積んだ上で、改めて駐在員等のビザ/労働許可を取りに行くというのも道として十分検討すべきです。

その他

他にもあげるとすると、ビザ/労働許可を取る上で、学歴がネックになるケースもあります。学歴というのはどの大学を出たかということではなくて、学位の種類(学士、修士、博士)と専攻が重要です。専攻がビザ/労働許可を取りたい職種、すなわち Software engineer と無関係なものだと、取得要件が変わってくることがあります。学位の種類によっても変わり得ます。特に意識せずに Software engineering と関係ある学位を取っていたらそれはとても幸運なことです。もしそうでなかったとしたら、時間とお金はかかりますが、いっそ学位を取りに留学からスタートするというのも選択肢としてありだと思います。この辺はケースバイケースなので、あくまで一般論としてはこの程度の情報かなと思います。

ビザ/労働許可のまとめ

そもそも、ビザ/労働許可がなければ北米に移住して働くことは不可能です。なので、この問題に対しては真摯に向き合い、不法労働など絶対にしないようにしましょう。もし、転職エージェントや紹介等で、ビザ/労働許可に対する情報を聞いて曖昧な場合があったとしたら、その話はなかったことにするのをおすすめします。最悪の場合は、永久国外追放なんてこともありえます。

なお、アメリカにおけるビザに関する情報は @splhack さんの以下のブログがおすすめです。

英語

ご存知の通り、北米は英語が主たる言語です。Software engineer なら英語はカタコトでもコードが書ければ大丈夫、という意見もありますが、僕は反対です。仕事でも日常でもコミュニケーションが双方ストレスなく取れるというのは、最低条件だと思います。Software engineer の労働はコードを書くだけではない、ということはみなさんが一番お分かりではないでしょうか。

北米に Software engineer として移住したい方のほとんどが、労働環境も英語であることを望んでいると思います。とすると、まず間違いなく面接はすべて英語になります。そこでまともなコミュニケーションが取れないとしたら、そんな人を採用したいと思うでしょうか?普通は思わないと思います。

また、移住するということは日常生活も現地に合わせるということです。日々のお買い物、近所や友人との会話、エンターテインメント、あらゆるものが当たり前ですが英語中心です。そういった環境にいくにあたって、コミュニケーションが不十分だと誰も幸せにはなりません。

英語でコミュニケーションを取ること

読み書きだけでは不十分です。口語でコミュニケーションが取れることも必須です。ただ、それはネイティブに英語が使えること2と同義ではありません。以下に、自分が体験してきたコミュニケーションの TIPS をまとめてみます。あくまで僕の体験と意見であり、一般的な情報ではありませんので、参考程度にしてください。

人の話は聞いていないものと思う

よく、日本語話者は相手の言いたいことを(時にはそれ以上の”空気”を)一発で聞き取ろうとします。英語でのコミュニケーションは多くの場合、相手の言っていることをまるで聞いていないことが多いです。特にビジネスの上では自分の意見を通したいケースが多いので、相手がなんと言っていようが、構わず自分の言いたいことだけを言うというケースもままあります。

要はそんな一言一句を注意して聞かなくていい、ということです。大事なことは、その人が何を伝えたい/主張したいのかを正しく汲み取ることです。また、自分が話す際には相手は一回では聞いてくれないものと思って、何度でも言い方も変えながら主張を続けることをおすすめします。自分の英語が 1 回で伝わらないとめげてしまう人も多いですが、それはあなたの英語が悪い場合だけでなく、そもそも話を聞いていない場合だってあるのです。そんな原因はどうだってよくて、伝えるべき内容を正しく伝えることがコミュニケーションでは重要なので、手段は選ばずやっていけば良いです。

いい発音・アクセントは必要

いわゆる正しいと言われる発音やアクセントは最大公約数的に多くの人が聞き取りやすい音の流れであり、それを使った方が聞き取ってもらえる確率は上がります。よく、カタカナ英語を押し通す人も見かけますが、あれはマイナー方言なので特に聞き取ってもらえる確率が低いのでおすすめしません。発音はとても重要です。

発音が良いと、聞き取りも良くなります。なぜなら、最大公約数的に多くの人が使う発音で自分が英語を認識しているなら、その音で入ってくる確率は最も高く、自分も認識しやすいからです。どの発音で行くかはもちろん個人の自由ですが、多くの人とコミュニケーションを取る上では、効率の良い発音を学ぶことは重要だと僕は思います。

発音記号等は一通りやった上で、きれいな英語のプレゼンテーションなんかをたくさんみると、特に Software の界隈で出てくる様なカタカナ英語を矯正することができるのですごくおすすめです。re:Invent の様に毎年のように大量の英語のコンテンツが出てくるイベントは山程あるので、勉強の題材に困ることはありえないと思います。

コミュニケーションのリズム

英語でのコミュニケーションには、リズムであったりプロトコルの様なものがあると思います。これは地域性もあるかもしれませんが、例えば僕が体験してきた範囲でいうと、冗談や世間話の様な本質と関係ない会話のあとに、重要なトピックを持ってくる人が多い印象があります。前置きの冗談や世間話は本質とは無関係なことも多いので、昔自分が英語が苦手だったときはその間は脳を休ませるために敢えて全く聞き取りせずに、トーンが変わって主題に入るタイミングを逃さず、そこから集中して聞き取る様にしていました。

こういったリズムやプロトコルの様なものは、実際に自分ごととして会話でやり取りをしていかないとなかなか身につかないと思うので、仕事で口語の英語をバリバリと使える環境で鍛えることをおすすめします。

英語まとめ

北米で Software engineer として働くのであれば、英語は必須と思って日々鍛錬すべきです。足切りだと思ってください。私が英語とどう付き合ってきたかについては、以下のエントリを参考にどうぞ。

家族

最後に家族の状況によって、そもそも移住が難しいという場合もあると思います。よくあるのが、配偶者は英語が一切話せなくて生活が不安であったり、自分の親の介護等で日本を離れられない等です。いざ、とてもいい案件があったときに、家族の状況がある意味でのブロッカーになってしまわないか、ということは先回りして確認したり相談をしておくべきです。

こればっかりはベストプラクティスはなくて、自分で考えるしかない問題ですが、認識しておくことは重要です。

もしもあなたが独り身で、家族に特に縛られる状況にないのであれば、それはこの文脈においてはプラスなことですので、北米に移住したいというその思いをぜひ成し遂げてください。

そうでない方は、家族の状況から目を背けるのではなく、その状況と正しく向き合いましょう。場合によっては移住できないという結論になるかもしれませんが、向き合うことをせずに結論を出すよりはきっと納得できると思います。広く情報を集めれば、同じ様な境遇で悩み違う結論を出された方もいるかも知れません。

まとめ

自分がこういった点を注意してきたという、個人的な情報のまとめではありますが、北米に Software engineer として移住したいという思いのある方は、参考にしていただければ幸いです。

キャリアの話は同僚・上司・友人には意外と相談しにくいものだと思います。もし誰かに話しを聞いてほしいという方がいれば、私でよければ相談にのりますので遠慮なく @riywo までご連絡ください。

最後に、注意点を再掲しておきます。

  • 就労に関する状況は日々変化しています。ここの情報はあくまで参考として、最新の正しい情報はご自身が行かれる際に改めて然るべきルートでご確認ください。
  • なぜ北米に行くのか?という問いにはこのエントリでは答えません。あくまでも移住したいというモチベーションを持っている方向けの情報になります。
  • 自分と同じ様に日本国籍のみ有していて、ずっと日本で生まれ育った方に向けて書いています。細かい状況の違いは読み手側で吸収してください。
  • これは個人の意見であり、私が所属するいかなる組織の意見を代表するものでもありません。

Footnotes

  1. ビザ/労働許可という書き方をしているのは、アメリカでは H1-B といったものがビザと呼ばれる一方で、カナダでは日本国パスポートを持っている人はビザは免除なので、労働許可(Work permit)を取得するだけになるからで、微妙に形式の違いがあるからです。情報として認識する上では、細かい形式は問題ではないのでスルーしてもらって大丈夫です。

  2. ちなみに、ネイティブとの一番の違いを感じるのが、英語の歌を聞いても全く聞き取れないことですね。。。