Project Hail Mary は科学好きにおすすめ

小説の”Project Hail Mary” を Audible (英語)で聴き終えました。すごい良さそうな評判を聞いてネタバレ見かける前に読まなければ!と思って 1 週間くらいで最後まで行きましたが、本当に良かったです。ただ、どんな些細な事を書いてもネタバレになってしまって初見時の面白味が減ってしまうので、ここではネタバレをしないように、でもこの本がどれだけ良かったかを書いてみたいと思います1

科学ミステリーの嵐

小説というものは、大枠を見れば起承転結や序破急の様な展開になっていて、それを如何に読者に楽しませるかが重要なわけですが、この小説はそういう意味での話の筋はそれほど変わったところはなくて王道な感じです。この小説の一番の魅力はそこではなくて、場面を問わず終始一貫して繰り広げられる科学的な思考です。小さい科学ミステリーが問いかけられては解かれ、それが延々と繰り返され、それが徐々に大きいミステリーにつながっていく。科学が好きな人にはたまらないと思います。そしてそれらの科学的な結論によって登場人物たちの行動がどんどんと変化していくわけです。科学でそこまで劇的に人の行動に影響を与えるのは、現実世界ではなかなか難しいですが、この物語の中では科学が全ての鍵になっています。

もちろん、専門家の方から見れば稚拙な部分や嘘もあるでしょうが、それは小説なので考えるだけ野暮です。もしも自分が同じ状況になったときに自分ならどう考えるか、を読み/聴きながら考えるだけで楽しくて、しかもそれが 1,2 回とかではなく序盤から最後までずっと続きます。科学的手法 - 観測、仮説、予測、実験 - がずーっと続いて、Aha! 体験を繰り返すことができます。時に自分で立てた仮説が登場人物の立てたものと一致したときには、もっと楽しくなります。ただし、これを楽しむにはネタバレを避けて読む必要があるわけです。

ただし、その科学的思考をする際にいちいち現実世界にある原理原則や現象の説明は入らないので、読み手を選びます。例えば、運動方程式、スペクトル解析、フーリエ変換なんかは叙述的に説明は入りますが、そもそもそれらを知らない人にはたぶん意味不明だと思います。読んだ感覚としては、高校~大学 1 年程度の物理、化学、生物あたりの知識があれば大丈夫だと思います(習ったのが 20 年前とかでも大丈夫でしたw)。

おまけで言うと、一人称なので主人公になりきって考えるのにもピッタリです。僕は一人称好きなので、その点もドはまりでした。

Audible との相性の良さ

これはネタバレになるので全然良さを説明はできないんですが、音声が物語の一つの重要な要素にもなっています。なので Audible で聴くと、登場人物ごとの音声が良く練られていて感動します。たぶん本を読んでいたらそこまで感動しなかったかも、と思います。15 時間程度で聴き終えられる分量で、家事や運転の時間に細切れで聴けて、難しい単語もそこまででてこないので、僕にはピッタリでした。日本語の Audible は現時点ではまだ出てないみたいですが、英語と同じ感じに仕上げてくれてたらかなり楽しめると思います。

欠点としては、Audible の場合は図解が無いので、物の形とかを全て言葉だけから想像しながら聴いていたので大変でしたが、かなり細かく説明してくれているのでまぁ無理ではなかったです。Amazon のチラ見で図解があるのをさっき知って、本の図解を見てから聴けば良かったなと思いました。

Software engineer の英語の学習にもぜひ!

上記のような内容の本なので、科学という手法を使って日々戦っている Software engineer の人達には非常に親しみやすいと思います。文芸的な小説よりも知的好奇心をくすぐってくれる本なので、英語で長い本を読むのに挑戦してみたい方にはおすすめです。かく言う僕も、長い本は読んだことがなかったのですが、あまりにも先が気になりすぎて 1 週間かからずに聴き終えることができました。

技術書でももちろんいいんですが、たまにはこういう作り話も楽しいですよ。

Footnotes

  1. 僕はあらすじも Amazon のレビューも一切見ずに、文字通りネタバレゼロで読みましたが、本当に主人公との一体感があって良かったです。